ボヴァリー夫人は私過ぎる

某男性誌からの依頼で半年ほど前に短編ポルノ小説を執筆した。

雑誌に掲載された記念すべき(?)処女小説(違うペンネームだけど)。しかし、せっかく書いた濡れ場が大幅にカットされてしまったので、その辺を入れ戻してここに再掲載しておきます(もったいないし)。ただ、担当編集者からは「まだ自意識が抜けてませんね」と言われた。…その通りだと思う。

「やり手社長が溺れた色欲と白い粉」

 華織梨は、地元仙台の短大を卒業後に上京し、銀座の高級クラブでホステスとして働いていた。スカウトされて入った今の店は通算3店目で、まだ移って1カ月しかたっていなかった。
その店に、社長が取り巻きを連れてやってきたのは、2年前の6月下旬のことだった。
「華織梨ちゃん、VIP席からご指名です」
奥にあるVIP席を見ると、5~6人の団体客が、盛り上がっている。そのなかには、テレビでよく見かけるタレントもいた。
「お得意さんだから失礼のないようにね」
 VIP席に向かおうとすると、ママから呼ばれそう注意を受けた。

「まあ、座ってシャンパンでも飲みなよ」
席に着くなり、華織梨は社長に手首をつかまれ、強引に隣の席に座らされた。
「名前、なんて言うの?」
「華織梨です。よろしくお願いします」
華織梨は名刺を渡した。
「セクシーな名前だね。名は体を表すって本当だ…」
社長は値踏みをするように華織梨の全身を見回した。
社長が経営している「マジェスティ」は、コンパクトマンションの販売で売り上げを伸ばし、数年前に上場も果たした新興不動産会社だった。年商は400億円、社長の年収も軽く5億を超えるという。同席していた取り巻きは、マジェスティがスポンサーになっているテレビ番組の出演者と関係者だった。
「出身、どこ?」
「仙台です」
「俺も秋田なんだ。奇遇だね」
そう言って社長は、全員が見ている前で、華織梨の胸元に10万円の札束を入れた。
「出会った記念だ。取っとけよ」
華織梨は笑いながら、10万円を押し返した。 
「じゃあ、これならいいだろ。俺の名刺だ。一度連絡くれよ。プライベート用だから、昼でも大丈夫だ」
「はい」
「必ずだよ」

 次の日の午後、華織梨は、お礼のメールを社長に送った。すると、すぐに電話がかかってきた。ディナーの誘いだった。強引さに少し腰が引けたが、その日が週に1度の休みだったこともあり、華織梨は誘いを承諾した。麻布の鉄板焼き屋で食事をした後、二人は会員制のバーに移った。乾杯してしばらくすると、「仕事の電話があるから」と言って社長は席をはずした。華織梨は、仕方が無いので、カクテルの氷を転がしたり、バーテンと世間話をしていたが、15分ぐらいたってやっと社長は戻ってきた。そして、唐突に華織梨の耳元で囁いた。
「なあ、俺の愛人にならないか?」
「冗談でしょう?」
「本気だよ。もし俺の愛人になったら、月に100万はやるぞ」
 華織梨をみつめる社長の目は充血していた。まるで赤いマントに突進する闘牛のような思い詰めた目つきだった。しかし、華織梨はそれだけこの男は自分に本気なんだと思った。華織梨は迷った末、数字を手帳に書いて破り、社長に渡した。
「これ、私の口座番号…」

 それから1週間後、彼の所有するマンションの一室で、初めて二人は交わった。華織梨が仕事を終えて店を出ると、ハマーに乗った社長が待っていたのだ。巨大なハマーは、銀座の道を進駐軍のように動き出した。着いたのは恵比寿にある社長のマンションだった。最上階に昇ってドアを開けると、100平米はあろうかというペントハウスが目の前に現れた。ベランダからは、東京の夜景が一望できた。
 二人は、ソファに座ってワインで乾杯をした。つまみのブルーチーズの脇には白い錠剤があった。
「これなんですか?」
華織梨は興味深そうに尋ねた。
「魔法の薬」
「へえ」
「飲んでみようか。大丈夫だよ、合法のヤツだから。実は俺もさっき飲んだんだ」
 華織梨はうなずいて、細かく砕いてチーズと一緒に口に入れ、ワインで流し込んだ。それから10分もすると、アタマがジンジンして無性に身体が火照ってきた。
「どう?」
「なんか、身体がアツい……」
 そう言い終わるか言い終わらないうちに、社長は華織梨に覆いかぶさってきた。

「ちょ、ちょっと待って……」
そう言ったが、身体が言う事を聞かなかった。男の左手は、スカートの中に素早く滑りこんでいる。すでに花芯は期待に膨らみ、トロトロに融けていた。
「あッ!!」
 シャワーを浴びていないせいか、男の汗と香水が混ざりあい、女の官能を狂わせる。華織梨は、そのまま社長に身体を預け、舌と舌を絡み合わせた。そして、ズボンのファスナーをおろし、そそり立った男根をゆっくりと口に含む。唾液を頬に含ませながら、クチュクチュと舌で転がすと、男は「ううっ」と呻き声をあげた。
その夜、二人は夜通し交わった。ベッドで、ソファで、ジャグジーで、キッッチンで、そしてまたベッドで。華織梨はこれまでに体験したことがないくらい、何度も何度もアクメに達した。自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。
 最後の絶頂から数時間後、社長はいつのまにかスーツに着替え、ベッドでまどろむ華織梨に優しくキスをしながら「寝てってもいいぞ」と声をかけた。
「仕事ですか?」 
「ああ、もう行かなくちゃいけない。この街を俺は制覇するんだ」
 窓の外を見下ろしながら、宣言するように言い残し、社長は部屋を出ていった。

 それ以来、社長は店に来ると華織梨を指名するようになった。ほどなくして華織梨は No1の座についた。社長は、たいてい複数の有名人を連れて遊びに来ていた。取り巻きには、芸能人のほか、野球選手やJリーガーなどスポーツ選手が多かった。
 華織梨と社長の情事は、月に1~2度だった。しかし一回一回がいつも濃厚だった。マンションのジャグジーでねっとりと舐め合うこともあれば、社長が常宿にしているホテルの非常階段で服を着たまま挿入されることもあった。

 もちろん華織梨は、愛人や恋人が自分だけではないということも知っていた。店でも、堂々と「愛人が10人いる」「400万円使って女優とやった」などと豪語していたし、「女を口説けないヤツに仕事は任せられない」と吹聴していたこともある。しかし、そういったことは、あまり気にならなかった。というより、仕事も遊びも桁外れなこの男に、華織梨は抗いがたい魅力を感じていたのだ。
しかし、どうしてもついていけない問題もあった。薬のことだ。情事の前は必ず二人で白い粉を吸った。それが、合法ドラッグなどではないことは、華織梨もすでに気付いていた。何度か、社長が主催するドラッグパーティに参加したこともある。クラブでも、社長は頻繁にトイレへ行き、鼻の下に粉をつけて戻って来た。このままでは自分はダメになる…。わかっていながらも、快楽に溺れる自分を止められなかった。そして、ときどきかいま見える裏の人脈とのつながりも不安だった。

 ところが、知り合って1年目の冬、偶然によって、華織梨は破滅への転落を免れる。年末に地元へ帰ったときに、たまたま出席した同窓会で、高校時代の元彼と再会したのだ。元彼は、アメリカの大学に留学した後、実家の呉服問屋を継いでいた。7~8年ぶりの再会だというのに、ずっと一緒にいるような安心感を華織梨は抱いた。元彼が、再び彼に戻るのに、1カ月もかからなかった。そしてそれは、社長との関係の終わりを意味していた。

その日、二人は、イタリアンレストランで食事をしていた。前日に、マジェスティと、前ニューヨーク市長が設立した投資会社との業務提携が成立していたせいか、社長は、興奮気味に華織梨に語りかけた。
「やっと世界進出への道が開けてきたぞ。東京はもういい。ニューヨークの摩天楼に乗り込んでやる。なあ、今度、お前もマンハッタンに連れて行ってやるよ」
「私行かないわ」
華織梨はうつむいた。
「どど、どうしてだ? あ、あんなに行きたがってたじゃないか!!」
 血走った目で、社長は華織梨の顔を覗き込んだ。しばらくして、ぽつりと華織梨は言った。
「好きな人ができたの。それに、ろれつの回らない状態でレストランに来る人と、もう一緒にご飯を食べたくないの」
 社長は、キョトンとしていたが、状況を理解すると、みるみる顔を紅潮させた。両手に持ったナイフとフォークは、ぶるぶると震えていた。

 それ以降、社長は、ほとんど店に来なくなり、たとえ来ても別のホステスを指名するようになった。しかし、華織梨はとりたてて悔しいとも思わなかった。そういう世界なのだ。まもなく華織梨はホステスを引退し、地元へ帰った。彼からプロポーズを受け、呉服問屋の若女将になることが決まったのだ。華織梨という名前も、もう必要なかった。
 地元に戻って1週間たった6月28日、かつての華織梨は社長が覚せい剤所持で逮捕されたことを知った。買い物帰りに車のラジオからニュースが流れたのだ。自分もよく知っている恵比寿のマンションで捕まったらしい。報道によると、逮捕されたとき、男は完全な中毒状態だったという。

女は、男の厚い胸板を思い出した。そしてかつての愛人であるその男を破滅に導いた白い粉のことも。
「そういえば、あの人と知り合ったのも、ちょうど今頃だったわ」
 しかし、女にとってそんな感傷は、もう忘却すべきものでしかなかった。
「さあ、パパが待っているおうちに帰ろっか?」
 お腹にいる子供に話しかけ、「華織梨だった女」は、小型ベンツのアクセルを踏み込んだ。(了)

※この作品はフィクションです。

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